企業インタビュー

NTTテクノクロスが語る
クラウドネイティブエンジニアの育成の大切さ

プロフィール

NTTテクノクロス株式会社 デジタルツイン事業部 第三ビジネスユニット 鷲坂 光一さん(写真中央) デジタルツイン事業部 第三ビジネスユニット 花上 尚人さん(写真左) 特定非営利活動法人エルピーアイジャパン(LPI-JAPAN) 理事長 鈴木 敦夫(写真右)

DXへの取り組みや既存のオンプレミスシステムのクラウド化が進む中で、Linuxや、Kubernetesを含めたコンテナといったオープンテクノロジーを通じて、クラウドネイティブ技術を学ぶことの重要性がこれまで以上に高まっている。
今後エンジニアはどのような考え方でスキルを蓄積していくべきか。今回はNTTテクノクロス株式会社のデジタルツイン事業部でクラウド関連の事業を担当されているエンジニア、鷲坂光一氏と花上尚人氏の2人に話を聞く。NTTテクノクロスは、NTT研究所のメディア処理技術や知的処理技術をフル活用し、顧客体験価値を最大化するカスタマーエクスペリエンス事業や、顧客のビジネスのデジタル化、イノベーションを加速するデジタルトランスフォーメーション事業、ビジネスイノベーション事業などを展開している企業だ。
聞き手は、Linuxのエンジニア向け認定試験「LinuC」などを通じてエンジニア育成に注力するLPI-Japan理事長の鈴木敦夫氏。LPI-Japanは、LinuCの他にも、PostgreSQLの技術力を証明するOSS-DB、OpenStackの技術力を証明するOPCELなどの認定試験を実施しており、NTTテクノクロスでも効果的に活用している。こうした認定をどのように生かしているのかにも注目する。

1. ますます広がるクラウドビジネス NTTテクノクロスはOpenStackのスペシャリスト

鈴木NTTテクノクロスでお二人はそれぞれどのような役割を担っていますか?

鷲坂NTTテクノクロスはNTT研究所が開発した技術に対して実用化に向けた品質向上や新しい機能を追加するなどして、NTTグループ内はもちろんのこと広く一般に広めることをミッションとしています。我々はデジタルツイン事業部で、主にクラウドビジネスを対象に事業を展開する部署ですが、プライベートクラウドの設計、構築、保守に加え、パブリッククラウドやクラウド上で動かすアプリケーション、ミドルウェア層を含めて、ビジネスの幅を広げることを目的としています。

花上私はOpenStackやコンテナの検証、プライベートクラウドの構築に加えて、社内研修の講師を担当しています。

鈴木コロナ禍の影響が長引いています。リモートワーク化が進み、サービスでも非接触がキーワードになるなど、さまざまな影響が伝えられていますが、何か気づくことはありますか?

鷲坂世の中で在宅勤務が求められるようになったことで、NTTテクノクロスが提供するサービスで言えば、リモートアクセスサービス「マジックコネクト」の引き合いが増えました。これは手元の端末にオフィスにあるPC画面を呼び出して操作できるので、注目が集まりました。 ただ自分たちの業務でいうと、実際のところ思ったほど影響はありませんでした。消費者が直接かかわるアプリケーション領域に比べると、私たち2人が主に担当するIT基盤にはそれほど顕著な変化がないのかもしれません。ただ、市場全体を見ると、今後オフィスを解約してリモートワークの体制に移る企業が増えると言われています。そうなれば、サーバーやネットワークの在り方も変化してくるため影響はあると思います。

鈴木なるほど、そうすると益々クラウドを活用していく企業も増えていきそうですね。あらゆる業種にITが活用されるようになる中で、クラウドサービスの重要性が高まっていると感じていますが、御社がOpenStackなどのオープンテクノロジーに早くから取り組んだこととも関係があるでしょうか。

鷲坂はい、かなり前からNTT研究所ではOpenStackを含めたオープンソースを活用する動きがありましたが、NTT研究所の業務を受注していた事で早期からOpenStack技術を習得することができました。商用ソフトウエアよりもコスト優位性がある点も影響していると考えていますが、それに加えて品質が安定し、コミュニティがしっかりしている技術をシステムインテグレーションに活用する流れが主流になってきていると感じています。

2. 最近のクラウド技術 OpenStackのコモディティ化とコンテナ技術の登場

鈴木ITインフラの仮想化技術としてのOpenStackの重要性は変わらないと思いますが、最近はDockerやKubernetesといったコンテナ活用基盤や、アプリ開発に注目が移ってきていると感じます。

鷲坂確かに、以前あったようなOpenStackの環境が欲しいというよりも、アプリケーションを動かすうえで適した環境が欲しい、というようなお話がよくあります。アプリケーションを支える技術としてOpenStackがあるわけで、ある意味OpenStackがコモディティ化してきたとも言えるかもしれません。我々としてはOpenStackやKubernetesという個別の技術だけではなく、オープンソフトウェアを使ったITインフラ作りに関心があります。

花上アプリケーション開発の視点も大きく変わりました。従来型のサーバー上で動いていたシステムを仮想マシン(VM)上に移行するだけなら比較的容易ですが、コンテナ化となるとそうはいきません。なぜならコンテナという技術の特性を理解して、動かしたいアプリを設計し直さなければならないからです。いろいろなプロセスをコンテナ上でどう分離するか、ネットワークをどうするか、システムが現在の状態を表すデータなどを保持してその内容を処理に反映させるステートフルなアプリもコンテナ化するかVMで処理するかなど、論点はたくさんあります。

鷲坂コンテナ技術の登場で、コンテナの概念を理解してそれを前提としたアプリ開発が必要になってきたということもあり、我々としてはお客様にコンテナ技術やその概念を説明する研修会なども行なっています。 もちろん社員向けにも様々な技術に関する研修は提供しており、特にOpenStackの研修では環境構築に必要な技術としてだけでなく、「仮想化を実現するための概念を理解させる」ということにも使っています。

鈴木なるほど、クラウドサービスを構成するインフラ技術からそのうえで動くアプリケーションまで見据えてしっかりと仕組みを理解することが重要と考えて研修を実施されているということですね。

3. 人材育成の取り組み 仮想化技術を学ぶのにも体系的に学ぶことが重要

鈴木ところでNTTテクノクロスではどのような研修機会を設けていますか?また、認定をどのように活用されていますか?

鷲坂DockerとKubernetesについては、1回16人を対象とする専門研修を年2回実施してきていました。今はリモート環境での実施になっていますが、技術力を身につけてほしいというのが会社の方針としてあります。ですから認定についても技術が分かってきたら取得するというよりは必要な技術を身に付けるために取得することに価値があると思っています。社内にはエンジニアの技術力を評価する制度があり、会社としても外部資格の取得を積極的に勧めています。
また、認定を持っていることは、その技術を理解していることを端的に示すものだと思っています。例えばクラウドの構築にはLinuxの技術を持っていないとなかなか活躍できないし、コンテナの研修を受けるにしてもサーバーを理解していなければ理解が進まない。なので研修を受けさせるにしても認定の有無は参考になっています。特に、面識のない外部の協力会社のエンジニアの技術力を把握する際には、各エンジニアが保持している技術資格を参考にしたりしています。

鈴木様々な研修だけでなく、認定にも力を入れ、仮想化基盤の技術を身に付けさせているのですね。まさにクラウドを構成する仕組みを理解し、使いこなせるしっかりとしたクラウドネイティブエンジニアを育成する強い意志を感じます。

鷲坂エンジニアの育成には、スペシャリストかゼネラリストかという観点もあります。コンテナなどの分野別に技術力を極めるタイプと、システム全体を設計するといった力をつけるタイプなどにわかれます。最近の傾向では、システム開発をする上で必要な技術があればそのスキルのある人をアサインするというやり方が多いです。一方でかつてのような「巨大プロジェクト」は減ってきていて、大きなシステムアーキテクチャ設計をする機会やそれができる人も減ってきたように思います。

鈴木そうですね、以前は大きなビルの2フロアを借り切って多数のエンジニアが集まるといったプロジェクトもよくありました。今は、業務の信頼性や効率を高めるバックヤードのシステムではなく、事業としてのサービスへの適用が増え、オンプレミスで巨大なシステムを作るのではなく、クラウド上のリソースを効率的に使い、小さなサービスから巨大なサービスまで提供する方向に動いているように見えます。そういった中、変化に強いシステム作りが求められていますので、特定の分野を得意とするスペシャリストと、システム全体を設計するアーキテクトの連携が重要になってきているように思います。そのためには、スペシャリストであったとしても、全体観を持っていないとその専門性は生かせないと考えていますし、アーキテクトの育成も大切だと考えています。
このためLPI-Japanでは、昨年、Linuxエンジニアの認定試験であるLinuCを大きく改訂してITエンジニアとして必須となる技術要素を盛り込み、様々なエンジニアに成長するための基盤を固められるようにしました。そしてさまざまなITエンジニアとして成長していくために必要な軸となる技術をオープンテクノロジーの認定を通して身に付けていく指針としてオープンテクノロジーのキャリアマップを示しているのは、LinuCで身に付けた技術の土台の上に、自らのITエンジニアとしての方向性を考え、必要となる本質的な技術、仕組みとしての技術を更に学んで成長して欲しいと考えているからです。

鷲坂いい考え方だと思います。社内で研修を実施するときに参加の条件をつけたりしますが、「この技術を習得すると次はこういう技術につながります。なのでこの研修を受けてみませんか?」というように技術と研修をセットで体型化できたらいいな、と思っています。それにこのキャリアマップの考え方というのがつながるように思います。

花上社内の研修において、例えば表面的なLinuxのコマンド入力だけの習得を目的とするような研修の必要性は低いと思いますが、Linuxの仕組みやアーキテクチャを理解するための学習や研修は必要だと思います。エンジニアのキャリアとして、アプリケーション、システム基盤などどこに向かうにしても、プロセスの動き方や仕組みの理解をしておくのが望ましいです。

鈴木はい、最近はIT技術の世界でも新しい技術やサービスがどんどん出てきて便利になってきていますので、技術の仕組みが分かっていなくても、使い方だけ知っていればある程度の機能なら簡単に出来てしまいます。こういった便利なものを使うのは良いことなのですが、まず、基本的な仕組みや、考え方など重要な事をしっかり認識し、意識的に身に付けないと変化に対応できず、成長できない技術者に成ってしまうと危惧しています。

鷲坂我々のベースとなる技術はクラウドであり、少なくともNTTグループの中では「OpenStackであればNTTテクノクロス」と思ってもらえるような存在になりたいと思っています。そしてクラウドの技術や、これから出てくる新たな技術もしっかり身につけた上で、お客様から要望のあるアプリケーションレイヤーやミドルウェアなど上位部分においても支援ができる、確かな価値を提供していきたいと思っています。
また隣にいる花上を含め、若者が積極的に新しい技術を習得し、NTTグループ内外を問わず貢献している会社でもあります。活躍ができる土壌も出来上がっているので、最近は展示会なども減ってしまい機会も減ってきていますが、積極的に外部に知ってもらえるようなアピール活動をしていきたいですね。

鈴木アピール方法として展示会でのプレゼンもそうですがホワイトペーパーを出したり、外部団体活動やオープンソースのコミュニティなど対外活動に参加していくことは、業界における人的ネットワークを構築するのにも役立ちますので、これはおすすめです。 いままでお聞きしたお話から、御社では技術の仕組みを理解した本質的なエンジニアを育成していく考え方と、それに基づいた研修を実施され、すでに沢山の優秀なエンジニアがいらっしゃるので、対外的にも益々その存在感を高めていかれると期待しています。
LPI-Japanとしても、今以上にコミュニティ活動も含めさまざまなイベントを開催したり、外部活動も活性化していきたいと思っていますので、一緒にクラウドを構成する幹となる技術であるOpenStackや、Kubernetesなどを通して仮想化技術やコンテナ技術を学ぶことの重要性をアピールできたらと思います。
本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。